建設現場が他の業種と大きく異なるのは、①現場が有期事業であり、②多くの作業員が入れ替わり立ち代わり出入りし(流動性)、③様々な事業者が混在する中で業務が行われる点です。こうした特徴から、ストレスチェックの結果を各個人にフィードバックしつつ、その結果を職場環境改善につなげるといった法定のストレスチェックの手法では対応できない面があります。そこで、考案されたのが「健康KYと無記名ストレスチェック」です。
この「健康KYと無記名ストレスチェック」とは、法定のストレスチェックが目的とする個人と組織の「メンタルヘルス不調の未然防止」(メンタルヘルス不調のリスク低減、労働者のセルフケア能力の向上、職場のストレス要因の低減、高ストレス者の早期発見と適切な対応)の対策を、現場の「安全施工サイクル」※1に組み込んで実施できるようにしたもので、「健康KY」と「無記名ストレスチェック」という2つの取組によって構成されています。
まず、個人の未然防止対策として実施するのが、「健康KY」です。これは毎日実施するKY活動のなかで職長から各作業員に対し、①体調、②食欲、③睡眠といった3つの質問をすることで、日々の心身の健康状態を把握します。毎日、一番近くにいる上長から「健康」状態に関する問いかけを行うことで、不調のささいなサインを見逃さず、早めに適切な対応ができるようになります。さらに、個々人の意識変容(健康に気を付けよう)やチーム全体、現場全体の健康意識も高まると考えられます。
次に、組織としての未然予防として位置づけられるのが「無記名ストレスチェック」です。法定のストレスチェックは、個人に対して結果をフィードバックし、個々人のセルフケアに繋げることを目的としますが、現場の場合、短期間に人が出入りするため、結果が出る頃には本人が現場にいないことが想定されます。また、ストレスチェックは個人の健康情報を扱うセンシティブ情報でもあることから、あくまで「無記名」により個人を特定しない形で実施することで、ストレスチェックの結果を、快適に働くための職場環境改善につなげるものとして取り扱います。
その実施方法は、次のとおりです。
①「無記名ストレスチェック」の実施
無記名ストレスチェック当日、現場に就労する全員が集合する安全朝礼等の場で無記名ストレスチェックシートを配布、回答してもらう。
②「無記名ストレスチェック」の集計分析
無記名ストレスチェックシート回収後、実施担当者が集計分析をして、その現場と所属する事業者ごとのストレス状況を判定する。
③集計分析結果に基づく職場環境改善
「無記名ストレスチェック」の集団分析結果等を現場へフィードバックして、より働きやすい現場づくりのための職場環境改善に役立てる。
この「無記名ストレスチェック」で判定できるストレスは、仕事の量的負担、仕事の裁量度、職場の支援(上司・同僚の支援)であり、たとえば、職場の支援が良くなければ、現場のコミュニケーションを活性化できるようなバーベキュー大会や声掛け運動、メンター制の導入、ポスターの掲示等に取組んでもらいます。
こうした改善活動を実施した後に、再度、「無記名ストレスチェック」を実施すると改善前と改善後で、ストレスの状況が大きく変わることが多くの現場で明らかとなっています(建設業労働災害防止協会:平成29年度厚生労働省委託事業 建設業、造船業等におけるストレスチェック集団分析等調査研究事業実施結果報告書,https://kokoro.mhlw.go.jp/statistics/files/kensetsu_zosen_scsyudan29.pdf)。
※1 安全施工サイクルとは、
現場の安全衛生管理は、全工程を通じて、毎日・毎週・毎月ごとに計画を立てて行う必要があります。これら毎日・毎週・毎月ごとの基本的な実施事項を定型化し、その実施内容の改善、充実を図り継続的に行う活動を「安全施工サイクル活動」と呼んでいます。